在宅治療の一風景
90歳のAさんのこれまでの人生は壮絶でした。
20歳から従軍しガダルカナル、ラバウル、ニューギニアなど南方戦線で終戦を迎えました。
まさか90の人とスラウェシ島マカッサルの夕陽の美しさを一緒に話せるとは思ってもいませんでした。
いろんな経験談を聞くことは私の楽しみでもあります。
がんを再発し積極的治療を全て拒絶しました。
死生観がとても達観されているのでジタバタしません。
唯一の楽しみが私の治療とおっしゃってくれました。
奥様の話だと他の事は全て忘れてしまうのですが、私が来る日だけは楽しみにしている、とおっしゃって下さり私も最後までAさんを診たいと思いました。
休日に「靖国神社」でマッサージ用の手ぬぐいとお守りを買ってきました。
「きっと英霊がAさんを応援しますよ」と言って手ぬぐいとお守りを渡すと奥様が「あなたの好きだったアニキ達が応援してくれるわよ!嬉しいわねえ」と静かに涙を拭いました。
Aさんは合掌し、手ぬぐいにい書いてある詩吟の意味を訳してくれました。
外の暑さと喧騒がうそのような静かな時間に、感動しました。
Aさん、これからもこの「掌」にAさんの体に刻まれた歴史を感じながら、また想像しながら治療させていただきます。
「この国のゆくえ」を憂いているAさんの意志を、いち鍼灸師の立場でできることをやっていきたいと思います。