訪問鍼灸マッサージを受ける方の多い例をご紹介いたします。(個人を特定したものではありません)

症例➀ 脳梗塞後遺症 80歳代 男性
【リハビリ・マッサージ・鍼灸パルス通電】

1:経緯
家屋内で脳梗塞を発症し右片麻痺となった。言語障害も残っている。地域のリハビリテーション病院にて、3か月のリハビリ後に在宅に復帰した。著しくADL(日常生活動作の能力)が低下しており、介護保険の適用を受ける。本人のリハビリ意欲は高く、週に3日通所リハビリを受けているが、さらに良くなりたいとケアマネージャーに相談し、訪問鍼灸マッサージを受けることになった。

2:施術  神経筋促通法
神経筋促通法、川平式反復運動などを中心に施術を行う。筋肉の痙性麻痺、拘縮緩和に対して低周波通電鍼を行う。
ベッドサイドでの歩行訓練や筋力・バランス訓練を行いながらADLの維持、向上に努めている。

3:考察
「家族に迷惑をかけたくない。自分で最低限のことができるようにしたい。人としての尊厳を保っていたい」と強く願う方です。トレーニングのみになると余計に筋肉が緊張し、やがて痛みを伴い始めます。鍼灸マッサージにより筋緊張の緩和を促しながら、ご本人様と何が問題点・課題点なのかを話し合いながら施術を行いました。

症例② 末期がん 80代 女性
【マッサージ・対話】

1:経緯
大腸がんの手術後に在宅に戻られた。術前と違い、トイレに一人で行くことができない、食事の準備ができないなど、日常生活で様々な支障が出るようになっていた。
訪問看護やヘルパー、リハビリデイサービスへの利用が開始されるのと同時に、訪問マッサージも利用したいとのことでケアマネージャーに相談があり、当院への依頼へとつながった。

2:施術
当初、起き上がりや立ち上がりが困難な状態。寝返り動作から一緒に練習を行う。ベッドサイドでの下肢の筋力訓練やバランス訓練、歩行器を使っての歩行練習を行う。また、腸閉塞の心配があることから腹部への内臓整体を行う。
何年もの年を跨いだおつきあいとなり、加齢とともに徐々に体力が衰えてきた。亡くなられたご主人のこと、お嫁さんのこと、息子さんの事など、直接本人に言えない本心を施術の中でいろいろお話下さる。入退院を繰り返していたが、訪問マッサージの利用は、一番最後まで大切にしてくれました。

3:考察
当初の目的は日常生活動作の向上や維持であった。リハビリや循環や血行の改善などを目的に行っていた。
終末期にはこれまでの人生を総決算のように様々にお話いただく中で、施術をさせていただいた。対話の力が、内なる声を引き出してこれたのだと思う。

症例③ 脊柱管狭窄症 80代 男性
【鍼灸・マッサージ・リハビリ】

1:経緯
一人暮らしの男性。腰の脊柱管狭窄症により徐々に歩行が困難になる。
遠方に住む娘さんの心配からケアマネージャーを介し、当院への依頼につながった。
徐々に歩けなくなっていくことに対する不安が大きく、ストレスを感じているようでした。

2:施術
高齢者の腰部脊柱管狭窄症は簡単に改善するものではありませんが、脊椎の際への刺鍼とお灸(お灸は煙の出ないタイプを使用)及び、硬くなっている筋肉へのマッサージやストレッチをすることでやや、症状が改善してきますと、施術を楽しみにされ、生活するうえでも余裕が生まれてきました。

3:考察
腰部の狭窄部位の近傍の血流を改善し、固くなっている筋肉を柔らかくすることで体の柔軟性と疼痛緩和がみられました。
同時に筋力の低下もありますので、筋力訓練も重視して施術が必要です。

症例④ 大腿骨骨折後術後 80歳代 女性
【リハビリ・マッサージ】

1:経緯
家で転倒し大腿骨を骨折し人工関節を入れる手術を行う。リハビリ病院でのリハビリを行った後に在宅に戻られる。
股関節と膝の痛みがあり、足の長さも変わり歩きにくさが残っている。

2:施術
リハビリとして歩行訓練、ベッドサイドでの筋力訓練、バランス訓練、トイレでの立ちすわり、階段の昇り降りなど日常生活に合わせた運動を行う。マッサージにより関節と筋肉の柔軟性を高める。また高齢者特有の便秘や不眠などにも対処することで、負担が少なく日常生活が送れていると思う。

3:考察
在宅復帰後、なるべく早く介入できたことが良かった。リハビリや訓練一辺倒ではなく、時には便秘や不眠など周辺症状をしっかり対処していくことも、高齢者の方には特に重要です。

 

症例⑤ アルツハイマー型認知症 
80歳代 女性
【対話・マッサージ・介護者へのマッサージ】

1:経緯
息子さんと二人暮らし。息子さんが母親の認知症症状により、介護疲れが顕著になる。腰痛や便秘など身体的な症状と同時に、不安などの心理的な症状もあり、ケアマネージャーからの相談により施術を開始する。

2:施術
施術中はゆっくりと本人の話を聞きながら施術する。時には息子さんと三者で会話をしていくことにより、それぞれの背景にある感情を大切にするようにした。患者さんが何度も同じことを話すのは、不安があることだったり、執着しているものや、これまでの人生で大切にしてきたものだったりする。そこは否定することなく大切に聞いていく。施術を非常に楽しみにしており、時には息子さんの施術をすることでストレスの緩和が見られる。

3:考察
私という「第三者」を通して会話をすることで、息子さん、患者さん本人がそれぞれ大切にしている感情に気がつきやすくなり、徐々に家庭の雰囲気は和らいでくる。私たちは本人の症状のみを見るのではなく、家族との対話を通じて、介護者の介護負担軽減や、感情のやり場として、話をよく聞くようにしている。