御井敬三先生

皆さんは御井敬三という鍼灸師をご存じでしょうか。

大阪で開業していた名人です。ご自身でされている脈診や鍼灸が千数百年の昔に飛鳥に伝わったことから、飛鳥に興味をもちます。

全盲ながらも、飛鳥のいにしえの風景に古代人の息吹を感じ、月に2~3度訪問してましたが、とうとう治療院は弟子にまかせ、飛鳥に居を構えます。

隣の橿原市から忍び寄る都市化の波に危機感を持たれ、「飛鳥古京を守る会」を活性化、「飛鳥村塾」の開講により、日本民族の心のふるさとである飛鳥を守るために尽力します。

熱い思いは録音テープを佐藤栄作首相あてに直訴状として、松下幸之助を介し手渡します。
以後、一地方・一個人が起こしたきっかけが国策として動きはじめました。

以下は
その録音ですが、素晴らしい名文です。
同じ鍼灸師として(同じなんて恐縮・失礼ですが!)誇りに感じます。

昭和45年1月

佐藤首相閣下

鍼灸師 御井 敬三

「日本の心のふるさと」明日香を守るために

拝啓、輝く1970年を壽ぎまつるにあたり、誠に偉大なる日本の指導者であられます佐藤首相閣下の御健勝を衷心より祈念してやみません。
さて、日本国民の一人として大和魂をふるいおこし、一管を奉ることを、何卒、御聴容のほどお願い致します。

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(中略)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ここに、1970年を迎えるに当たり、現政府の施政方針の一つに、是非とも取り上げて頂きたい事柄があります。

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(中略)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ご承知のように、明日香村は大和朝廷発祥の地であり、日本の古代国家が初めてその形を整え、法治国家として出発した古京であります。
古代の大和朝廷の殆どが飛鳥に都を置き、そうしてこの飛鳥を中心にして大和国家は栄え、この飛鳥を中心として古代文化の輝かしい数々が生まれ、やがて大和の名は日本全体を意味する言葉となってまいります。このように、古代日本の政治と文化の母胎となったのが明日香でこの飛鳥こそは、「日本の心のふるさと」の名に値する唯一の存在でもあるといえます。
したがって、明日香の古京を逍遥すれば誰しも日本のこの国が如何にして形成され、如何なる経路を辿ってきたかを回想せずにはおられないでしょう。
このように、日本の国の成り立ちから、日本の国がどういう国がらであるかを知ることは、日本人にとって最も大切な事柄ではないでしょうか。

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(中略)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

明日香はまた、古墳時代の後期、その頂点に立って、律令の制定、神祇上の典礼の確立、外邦百済・隋・唐との交流、医術、暦法、数学、舞楽、建築その外の文化の摂取が行われ、仏教を移入して造寺、造仏を興こし、漢字の伝来を持って日本の言葉を文字に写すことを始め、古事記、日本書紀、風土記などの史実の編纂、万葉集などの詩歌の編集など、我らの祖先が如何に人生を生きたかを哲学的、宗教的、倫理的に標し、またそれらを歴史的、文学的にも世界的に誇るべき貴重な記録として後世に残した古京であります。

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(中略)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

およそ如何なる国の民族も、それぞれの国が持つ文化遺跡を高く評価するものです。そしてこれを誇り、これを愛し、その国の名において実際に大切に保存しています。
それにも拘らず、我が国ではこの大切な明日香古京を大切に保存し、これを愛し、これを生かす精神とは非常に遅れています。
一体これは如何なることなのでしょうか。
もしも、このままに放置するならば、明日香古京は近代化の浸蝕を受けて、幾ばくもなくその価値を消滅してしまうことでしょう。
日本民族のふるさととも言うべき明日香の自然と風物、世界に誇るべき貴重な史跡は、どんなことがあっても守られなければなりません。
そのためには、さしあたり、特別風致地区及び古都保存法の両条例を適用することによって、明日香の風致と史跡を保護する処置を早急にとって頂く。
そしてさらに、明日香を守るというよりも、これによって国民精神の作興を図るとなれば、どうしても明日香古京法というような別の法令によって明日香を日本人の精神のふるさととして、村民の生活保障を含めた建設的な処置が取らなければならないでしょう。

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(中略)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

明日香を守る唯一の道は、明日香をこの後の日本の国作りの上に、その精神の中心として生かすことであると言う問題について考えてみる時、是非とも国の力によらなければならないという結論が出て参ります。

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(中略)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ここに切実に佐藤首相閣下の御英断を祈る次第であります。
かく言上致します私は、東洋医学の漢方によって、世の一部の人々の保健に微力を捧げてきた者でありますが、東洋医学はもともと東洋の哲学と結びついて発達してきましたために、診療には常に精神との関係がついてまわります。

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(中略)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

私は診療所を持つ大阪市の公害から逃れて週末を静養するため、たまたま明日香に偶居を得て一年有余、かねてよりあこがれていた明日香の想像以上のすばらしさに驚くとともに、しだいに明日香の持つ民族的意義を深く学び、非常な感動を覚えることができました。
こうして、焦点が一点に絞られ、日本民族が中心にすべき精神は古事記、日本書紀、万葉集の心に流れていることを発見し始めたのであります。
その探求には、明日香の自然を通して飛鳥時代の史蹟を通して、私達の祖先が残してくれた民族のイブキに触れなければならないと思考することに至りました。

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(中略)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

明日香を守ることは、いわば史蹟を守ると言うたぐいではなく、又、「温故知新」といわれる古きを尋ねて新しきを知るにとどまらない、更に大いなるものが秘められているところに意義があります。
ここに、日本人として愛国の至情止み難く、あえて一管を走らすに至った次第であります。加えて、この一管の御聴許を機に、首相閣下に是非とも飛鳥の古京趾を御視察頂ければ、光栄これに過ぎるものはございません。
願わくば、天の祐けと共に、人生意気の感ずるの士は来たりて行を共にされんことを、更にこの飛鳥村塾が魁となり、国の力によって、本格的な明日香古京の精神活動が出現することを祈りつつ、つたなきこの一管を終わることに致します。