ケニアでの鍼灸治療デビュー戦

正直この女性には会いたくない。

私を待ち伏せするように、顔を会わす度に「お金を貸してくれ」「何か甘いものくれないか」
と哀願するように右手を差し出してくる(このしぐさを作るのが非常にうまい)

ある日、娘が病気だというので返す期限を決めてお金を貸した。
だが、返すつもりはなさそうだ。

その後、彼女の足に包帯が巻いてあるの見つけ、「どうしたの?」「いや、事故にあってしまったんだ」なるほど、土煙で茶色くなっている包帯やかばいながら歩く姿が痛々しい。
「この前お金を渡したんだから、一度アクプントゥル(鍼灸)というのをやってくれないか?」
この時は(backではなくgiveと言っていた)。冗談じゃない、返すべきお金を返して、どうしてそんなに恩着せがましく言われなきゃならないんだ!しかも1カ月以上も遅れて、催促しなきゃ絶対に返してないだろ!
(「気が合う」という言葉あるようにお互いの気が合わなきゃいい治療なんか出来ないよ)

結局、治療はした。
しかし、予約時間には来ない。わざわざ探して呼んできたり、無断キャンセルしたり。まあ、こんな事途上国では当たり前だ。

数回で寛解した。

ある日家の前で彼女が立っているではないか。(なんだ身体が良くなったらまた金の無心かよ)

「ミスター、このアボガドとパイナップル食べてよ」(珍しく笑顔で!)
ワーカーの彼女の月給は非常に安い。どこかでもらってきたのか、モいできたのかな。

我ながら、ケニア生活で人間不信になってたなあ…と反省。

1ヶ月半の学校休みに入り、学校明けに彼女に会う事が少し楽しみになっている。体の不調は戻ってないかな…歩き方はどうかな。

しかし、彼女は亡くなっていた。
同僚に死因を聞くも、「病気だ」と一言。ケニア人はこんな時「マラリア」「病気」これしか言わない(他に知らないのだろうか)

40代の死は若すぎる。HIVだったのだろうか…
人と人の関係や自分の度量の小ささ、アフリカの貧しさをしみじみ考えた。

ケニアの大自然からすると人間の営みなんて非常に小さく、儚いのかもしれませんね。

by 五味哲也