鍼灸治療風景(ジャカルタ)

いつものように、2台のベッドに患者がうつぶせに横たわっっている。

一方はどう考えても、仕事を抜け出してココにいるが、本人はいたって悪びれていない。(教師です!)

突然、ドアが開け放たれる。
強い日差しによる逆光で誰が入って来たのかは分からないが、腕の中には子供が抱えられている。

「ミステル、娘が大変なんだ!」
「パ・ナウィか、どうしたの?」
パ・ナウィは学校の雑役夫、娘は9歳ほどで、挨拶すると恥ずかしそうに駆けてしまう、女の子。

しかし、いつもの様なかわいい笑顔ではなく、ぐったりしている。少しうわごとの様な事を言ってるし、質問にも答えられない位衰弱している。

住んでいる学校の裏には川が流れているが、ニュースになるほど当初、デング熱が大流行していた。

しかし、症状の割には脈が早くない。
もしかしたら、チフスかな。これがチフスの脈じゃないか。

普通の風邪なら鍼灸治療の後には症状が改善するが、変わらない。

「パ、病院へまず行こうよ」
「病院へ行くと、必ず入院させられる。金が無いからそんなこと出来ない!」

「じゃ、俺が毎日治療もするし、スポーツドリンクやフルーツ、ミネラルウォーターを持って行くから、生水はのませないでくれよ!」

「大きい病院ではなく、個人クリニックへ行こう。そこなら外来だけですむから安くなるし…」

「ミステルの治療だけじゃ駄目なのか?」(悲しそうな目をむける)

「申し訳ないけど、取り返しのつかないことになると大変だよ」

インドネシア人は普段底抜けに明るいし、陽気だが、何かあった場合の動揺さ、慌てぶりの反動が大きい。
そんなに慌てるなら普段から準備しとけばいいのに、と思うことが多々。

でも、私自身、言葉の通じない海外でパナウィや娘の明るさには、どれだけ救われてきたか…(そして彼らはいつも気にかけてくれている)

私を元気にさせてくれている人達が突然、病気になって彼らの憔悴ぶりをみて、始めて彼らのありがたさが身にしみる。
何とかしたい。

現在、はたしてどこまで患者さんを元気にさせているだろうか…

海外の生活は日本では出来ない経験と、自分の弱さ、小ささと人の温かさに気づかせてもらいました。

by 五味哲也